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奨学金は、入学や在学中にかかる費用が足りない場合に利用できる借入の制度です。基本的に在学中は奨学金を借りて生活し、卒業後に本人が毎月少しずつ返済していく仕組みです。
しかし、奨学金の返済が生活の負担としてのしかかり、返済を滞納したり、生活が困窮したりするケースも珍しくありません。そのため、親の身として子供の奨学金の返済を手伝いたいと思う方も多いでしょう。
奨学金の支払いを親が肩代わりすると、法律における贈与とみなされて贈与税がかかってしまいます。
この記事では、奨学金の支払いを親がした場合にかかる贈与税や、非課税にするポイントについて解説します。
奨学金の支払いを親がすると贈与税の対象になる
結論として、奨学金の支払いを親が肩代わりすると贈与税の対象で、援助した分のお金に対して一定の税金が課されます。
十分な貯蓄があるなら奨学金を借りる必要はありませんが、入学前はお金が足りなくて、在学中にまとまったお金が用意できて返済の目処が立ったという方もいるでしょう。
しかし、奨学金の借入金額は100万円単位と決して少なくありません。贈与税を非課税にできる金額には限りがあるため、奨学金の返済を一括で肩代わりしようとすると、多額の贈与税がかかります。
奨学金とは?
ここからは、奨学金とは何かについて紹介します。
奨学金には「貸与型」と「給付型」の2種類があります。それぞれ利用要件や仕組みが異なるため、奨学金の利用を検討している場合は以下の2つについて理解を深めておきましょう。
貸与型の奨学金とは、学費や生活費など、学生生活に必要なお金を借りる奨学金のことです。在学中は借り入れを行い、返済は卒業後に行います。
また、無利子の「第一種奨学金」と利子がついている「第二種奨学金」の2種類があります。
第一種奨学金の対象者は国内の大学・短大・専門学校・専修学校・大学院などが挙げられ、金額は学校の種別や入学年度、通学形態によっていくつかあるなかから選択できます。
第一種奨学金は誰でも受けられるわけではなく、優れた成績を残した学生や経済的な理由で就学が困難な方が利用できるタイプです。
第二種奨学金の対象者は第一種と変わらず、年率3%を上限とした利子が発生するタイプです。対応額は全16種類の中から自由に選択できます。選考基準はあるものの、第一種奨学金より利用の難易度は低い部類です。
給付型の奨学金は、国費を財源として支給されるタイプの奨学金です。優れた成績を収めた生徒が経済的な事情により就学できない場合や、就学が極めて困難である場合に返還義務のない奨学金を支給します。
貸与型の奨学金と違い、給付型の奨学金は返す必要がありません。
給付型の奨学金を受けるには、3つの条件をクリアしたうえで、選考に通る必要があります。
1つ目は学力基準です。入学後1年を経過している場合は、以下の条件のいずれかに該当していなければなりません。
- 高等学校等における評定平均値が3.5以上であること
- 入学者選抜試験の成績が入学者の上位2分の1以上であること
- 高等学校卒業程度認定試験の合格者であること
- 将来的に社会で自立する目標を持って学修する意欲が、学修計画書等により確認できること
2つ目が家計基準です。家計基準は第1区分から第3区分に分けられており、以下要件に該当する場合のみ申請できます。
- 学生と生計維持者の市町村民税所得割が非課税であること(第1区分)
- 学生と生計維持者の支給額算定基準額(課税標準額の6%から調整を差し引いたもの)の合計が100円以上25,600円未満であること(第2区分)
- 学生と生計維持者の支給額算定基準額の合計が25,600円以上51,300円未満であること(第3区分)
3つ目の条件が資産基準です。こちらは学生本人と両親の資産額の合計が2,000万円未満の場合のみ申し込みが可能です。
以上3つの条件が課せられるものの、一定の成績を収めていれば申請基準を満たしているご家庭のほうが多数派と予想されます。
学力のハードルは決して高くありませんが、もらえる確率はおよそ30%程度という説もあるそうです。
給付型の奨学金は返済不要なため、採用されれば学費を大幅に削減できるでしょう。上記の条件に該当する方であれば、積極的に活用したい制度です。
奨学金を親が返済する際の税金について
ここからは、奨学金を親が返済した場合に贈与税がかかるケースとかからないケースについて紹介します。
冒頭で奨学金を親が肩代わりすると贈与税がかかると言いましたが、必ずしも発生するとは限りません。
贈与税には非課税にできる基礎控除があり、その控除額の金額を超えた分に対して贈与税が発生します。
子供の奨学金の支払いを年間110万円を超えて支払った場合、110万円を超過した分に対して贈与税がかかります。
贈与税の税率は200万円以下で10%、300万円以下で15%、400万円以下で20%です。以降も一定額ごとに高い税率が適用されます。
基礎控除110万円以外にも贈与額に対して控除額はプラスされていきますが、最低でも贈与した金額に対して10%以上は税金がかかってしまいます。
贈与税を非課税にするためには、1年間で110万円以内に収める必要があります。基礎控除は1年区切りなため、年間110万円ずつ納めていれば贈与税はかかりません。
基礎控除の仕組み上、贈与税をかけずに奨学金の返済を肩代わりする場合は、できる限り早い段階から対処しておく必要があります。
例えば、奨学金の借入金額が290万円の場合、一括で両親が奨学金を返済すると290万円から110万円を引いた180万円に対して10%の贈与税が発生します。
しかし、この290万円を100万円を2回、90万円を1回の3年間にわたって贈与していた場合、贈与税はかかりません。
なんらかの理由により一括で返済する必要がある場合や、数年にわたって贈与を行えるだけの金額がこれまでなかった場合は「相続時精算課税制度」を利用することで2,500万円まで非課税にできます。
奨学金の借入金額は数百万円程度な場合がほとんどのため、相続時精算課税制度を使えばまとめて奨学金を返済できるでしょう。
ただし、相続時精算課税制度には以下の条件があります。
- 両親または祖父母が60歳以上
- 子供または孫が18歳以上
なお、本制度を適用した者は、贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までに贈与税の申告をしなければなりません。これは贈与税が0円であっても必要です。
また、相続時精算課税制度は後から元に戻せないため、安易に使うものではありません。遺産相続においても使われる制度なため、使用の判断は慎重に行う必要があります。
早急に奨学金の繰り上げ返済を行う必要がない限りは、年間110万円の基礎控除の範囲内で返済する方法をおすすめします。
奨学金の支払いが遅延すると生じるリスク
ここからは、奨学金の支払いを滞納することで生じるリスクについて紹介します。
奨学金の支払いを親に肩代わりしてもらえれば、問題なく返済はできるでしょう。しかし、親の援助がなく新卒時の収入に乏しい場合、奨学金の支払いを滞納してしまう可能性もあります。
奨学金には支払いを猶予してもらったり、期間を延ばしてもらえるなどの救済制度も充実していますが、誰でもその制度を利用できるわけではありません。
奨学金の支払いにおいては、以下のリスクがある点にご注意ください。
奨学金の返済は基本的に月末の口座引き落としによって行われます。そのため、返済額の振替日に口座残高が足りていない場合、振替不能として督促の通知や電話がかかってきます。
1回目の振替不能であれば督促状と電話は本人のみの対象ですが、2回目の振替不能からは連帯保証人である両親にも連絡が行きます。
そのため、奨学金の滞納を両親に隠すことは実質的に不可能です。
2回目の奨学金の振替不能からは、遅延損害金が発生します。
遅延損害金の利率は1.5%〜3%の間といわれており、発生日は期日の翌日から1日ごとです。
遅延損害金は割合で発生するため、元本が大きいほど遅延損害金も高くなります。滞納分を返済しない限り遅延損害金は発生し続けるため、早急に滞納分を支払わなければ大きな損失を被ります。
遅延損害金が蓄積されるほど返済自体が難しくなってしまうため、滞納は早急に対処しなければなりません。
4回以上奨学金の振替不能が発生してそれでも滞納分の支払いに応じない場合、裁判所から通知が届き、財産が差し押さえられます。
このとき、差し押さえられる順番に決まりはありませんが、基本的には口座残高→給与→家財の順で押収されるケースが多いそうです。
債務者本人は財産の差し押さえを拒否することはできず、必要最低限の家財を残して、ほとんど全ての財産が押収され、お金に変換されます。
奨学金の滞納であっても、連絡が全くつかない場合や、悪質と判断される場合は裁判に発展する可能性もあります。
また、この時点で信用機関のブラックリストに登録され、今後の人生におけるローン契約や携帯電話の契約などに大きな影響をおよぼしてしまうため、極力裁判沙汰や財産の差し押さえの発生は避けなければなりません。
奨学金の返済前に支援するのも一つの手段
もし両親に奨学金の返済を支援できる余裕があるなら、債務者本人が上記のようなリスクを背負う前に援助する必要があります。
ここからは、奨学金の返済前に親としてできる支援について紹介します。
在学中に両親側で、ある程度まとまったお金を用意できるなら、奨学金の返済タイミングではなく、在学中の学費として都度支援という形でお金を支援しましょう。
前述したように、贈与税は年間110万円までであれば非課税にできるため、仮に大学に在学中であればおよそ4年間にわたって合計440万円まで非課税で贈与して奨学金の返済に備えられます。
奨学金の返済・学費のどちらであっても、税金をかけずに支援するのであれば年間110万円以下に抑えなければなりません。
110万円を超えて贈与をすると、超えた分から最低でも10%以上の贈与税がかかります。この税率は支援の金額が大きいほど割合も高くなってしまうため、一括で支援すれば損です。
学費を支援する場合は基本的に一括ではなく、1年ごとに少しずつ分割して渡しましょう。
贈与税の非課税枠や相続時精算課税制度以外にも「教育資金の一括贈与に関する贈与税非課税措置」という制度を利用する方法もあります。
これは、教育資金として子どもへお金を贈与する場合に限り、一定の条件を満たせば1500万円まで贈与した分を非課税にできる制度です。
ただし、学校への支払い以外の用途で使う場合は上限額が500万円に下がります。
しかし、教育資金の用途である場合は前述した「教育資金の一括贈与に関する贈与税非課税措置」を適用できるため、まとまった金額を一括で子供に預ける場合は教育資金として受け渡すほうがよいでしょう。
教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置とは?
ここからは、前述した「教育資金の一括贈与に関する贈与税非課税措置」の詳細について紹介します。
本制度には一定の利用条件や期間、手続きが必要です。最大で1500万円まで非課税にできるものの、いくつか注意点もあるため、以下の概要を理解した上で制度の利用を検討しましょう。
教育資金の一括贈与に関する贈与税非課税措置の主な条件は、以下の通りです。
- 直系尊属からの贈与である
- 受贈者の前年の所得が1000万円以下である
なお、本制度は形式上「一括贈与」という形ではあるものの、贈与されるお金は子供の名義の教育資金口座に一旦保管され、子供本人が必要なときに必要な分だけを引き出せるシステムです。
もし、贈与された分を30歳までに使い切れなかった場合、残った分は贈与税の課税対象です。このときも110万円の基礎控除が適用されるため、口座残高が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。
本制度を利用する上で注意したいのが、制度の利用期限です。
本制度は令和8年(2026年)3月31日までに贈与した教育資金に対して適用されるため、2026年3月31日以降の贈与に関しては本制度が適用されません。
ただし、もともと2023年3月31日までとされていたものが3年延長された背景があるため、2026年時点でさらに延長される可能性もあります。
本制度の手続き手順は以下の通りです。
- 子供と贈与者の間で贈与契約書を作成
- 金融機関に問い合わせて教育資金口座を開設し、教育資金非課税申告書を提出
なお、子供がお金を引き落とすときには領収書を金融機関に提出することで、教育資金口座からお金を引き出せます。
本制度では最大1500万円まで教育資金口座にお金を預けられますが、子供はこの1500万円をいつでも引き出せるわけではありません。
本制度で引き出せる費用は、原則として学業に関連するものに限り、対象が定められています。例えば、学校の授業料・入学金・在学証明書代といった学校に対して支払う必要があるものは、領収書や証拠書類を提出することで教育資金口座から必要な分だけ引き落とせます。
また、学校以外の用途としては校外学習の活動費や卒業アルバム代、通学定期代などが挙げられます。これらは支払い先が学校ではないものの、学業に必須な費用なため対象内です。
ただし、学校以外に支払う場合の教育資金の上限は500万円までと定められています。
本制度の預け入れ金額は最大1500万円と決まっているものの、できるだけ余らない金額に設定しておく必要があります。
奨学金の滞納により車のローン審査に通らない可能性がある
多額の奨学金を抱えている、もしくは奨学金の滞納におよぶと、今後の人生における住宅ローンまたは車のローン契約時の審査に落ちてしまう可能性があります。
例えば、多額の奨学金を抱えているとローンの審査時に「契約する金額を支払えるだけの能力がない」とみなされ、審査に落ちてしまいます。
また、奨学金の元金が少額な場合でも、返済を滞納してブラックリストに登録された場合は、高確率で審査に落ちてしまうのです。
結婚や転職を機に住宅や車の購入に踏み切る方も珍しくないため、奨学金は滞納せず、早めに返済しておくのをおすすめします。
まとめ
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