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働き方改革によって懸念されている物流の2024年問題は物流企業だけでなく、配送を依頼している荷主企業にとっても対応を迫られている課題です。
とはいえ、具体的にどのように対応すべきなのか、対応を迫られている担当者の方は少なくないでしょう。
この記事では、喫緊の課題に対して、荷主企業がとるべき具体的な対処法を紹介します。この記事を通じて安定した物流の構築に必要な知識が身につくでしょう。
物流の2024年問題はドライバーだけの問題ではない
物流の2024年問題は働き方改革によって発生した諸問題です。具体的な内容については後述しますが、一般的なイメージでは物流企業やトラックドライバーに大きな影響があると考えられています。
とはいえ、特定の業界のみに限定した課題に終始する話ではなく、物流企業に支えられている荷主企業にも大きな影響を与えるでしょう。安定して自社商品を市場に供給するためにもSCM(サプライチェーンマネジメント)はメーカーにとって非常に重要な役割を担っています。
持続的な企業経営を進めるためにもSCMが占める重要度は高く、原料の調達から商品の市場投下まで物流の力は切っても切り離せません。変わりゆく社会情勢に対応していくためにも、メーカー側の対応が求められています。
物流の2024年問題とは?
物流の2024年問題とは具体的にどのような内容でしょうか。
この問題は平成30年7月6日に施行された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」に端を発します。労働者にとって働きやすい環境整備を目指し、長時間労働の是正や公正な待遇の確保などを目指して立法されました。
その結果、労働時間の上限が設定されましたが、物流業界では新たな課題が発生します。国内の物流は慢性的な長時間労働の上に成り立っているため、規制により既存のサービスレベルの維持や待遇の悪化が懸念されるようになりました。
これまで運べていた物量が運べなくなったり、ドライバーの雇用維持による配送コストへの価格転嫁などが起こりうるでしょう。今までの物流に対する常識が変わるため、周辺業界を巻き込んだ根本的な構造改革が急務とされています。
物流の2024年問題が荷主企業に与える影響
2024年問題は物流業界内にとどまらず、関連する業界に幅広く影響を与えます。特に原料や商品を運んでもらわなければならない荷主企業にとっては、この問題は死活問題といっても過言ではありません。
ここでは、荷主企業に対してどのような問題が懸念されるのか、具体的な内容について紹介します。
2024年問題によって物流におけるQCDの低下が懸念されています。
QCDとは、Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の3単語における頭文字をとった言葉です。
労働時間の制限により、残業時間分の手当が減る可能性が考えられます。その結果、収入が減ってしまえばドライバーを志望する人は減るでしょう。これまでと同じ水準の人材確保が難しくなり、配送におけるサービスレベル(Quality)の低下が起こるでしょう。
また、サービスレベルの維持のために給与水準を維持すれば、人件費は配送コスト(Cost)に転嫁されます。
また、限られた時間では運べる距離も短くなるため、納品リードタイム(Delivery)も長くなると考えられます。
ドライバーとしての労働人口の減少や労働時間の制限は、これまでの配送スケジュールの考え方を大きく変えるでしょう。
限られた人数と上限時間によって、今まで運べていた遠方へは運べなくなってしまう、労働時間内に運べないような件数は処理できなくなってしまう、など様々な問題が起こるでしょう。
その結果、配送スケジュールが大幅に遅れることが懸念されます。
運送業者による賃上げ交渉がこれまで以上に盛んになることが予想され、交渉の中でトラブルに発展する可能性も否定できません。
2024年問題と並行して人口減少の波も押し寄せており、今後はドライバーの確保が難しくなるでしょう。物流網を維持するためには、以前のような給与水準では求人への応募は見込めません。給与アップを実現するためには、人件費の高騰を配送価格に転嫁せざるを得ず、費用交渉は激化するでしょう。
働き方改革の影響は配送部分だけではありません。集荷に関しても大きな影響を与えるでしょう。
労働時間の制限によってドライバーへ残業させない企業が増えていきます。その結果、今までは夕方以降の集荷も対応していた物流企業が残業削減のために対応しなくなるかもしれません。
そのため、集荷時間に関しても時間制限が課され、スケジュールの前倒しを迫られるでしょう。
これからの物流で荷主企業が考慮すべき課題
今まで通り滞りなく商品を運んでもらうためには、荷主企業としてどのようなアクションを起こせばよいのでしょうか。
取り組むべき課題は山積みかもしれませんが、その中でも緊急度の高い課題が3つあります。
ここからは、今後の物流において荷主企業が考慮すべき喫緊の課題について紹介します。
2024年問題で懸念されている課題の一つに長距離輸送の維持ができなくなることが挙げられます。
関東圏から九州まで、現在においても休憩2時間を含んで移動時間は12時間を優に超えます。そのような場合、8時間の上限時間を守ろうとすれば長距離での輸送は立ち行かなくなるでしょう。
遠距離輸送に対して、今後ハードルが上がることは避けられない事実です。全国に商品を配置するためには新制度の条件下において長距離納品を継続できるような仕組み化が必要でしょう。
納品条件を緩和していく企業の増加が予想される中で、仕組み化に成功することが他社との差別化につながり、物流のQCD維持にもつながります。
2024年問題で懸念される課題として、輸送コストの増加も避けられません。そのため、高騰する物流コストを自社商品の価格へ反映せざるを得なくなる可能性が高いでしょう。
1時間当たりの売上が従来より減れば、ドライバーへの給与も減らさなければいけない可能性があります。結果、物流企業からの人材流出は避けられないでしょう。そのため、配送単価を上げて給与維持を図る企業は増加します。
荷主企業が配送単価のアップを良しとしなければ、物流企業から取引を停止されることも少なくないのではないでしょうか。
自社の商品を運んでもらうためにも、価格改定の交渉はある程度のみこむ必要もあるため、増加したコストを回収するための対策は必須の課題です。
2024年問題では輸送時間だけが問題視されているわけではありません。荷下ろしや荷積み、検品などの付帯作業の改革にも取り組む必要があるでしょう。
現在、国を挙げてパレットの標準化が進められているように、付帯作業を軽減することで運送業者が効率的に荷物を輸配送できるような取り組みがなされています。そのため、荷主企業としても輸配送に支障をきたさないような規格の標準化が急務です。
さらに、納品時の待機時間を削減する働きも必要でしょう。納品リミットの調整など、得意先との交渉は避けられません。
2024年問題の課題をクリアする方法
荷主企業としての課題を明確化できたことで、次に必要なアクションはどのようにして目の前の課題を解決するのかです。
ここからは、課題をクリアするための具体的な手法について紹介します。システム面や他社荷主とのアクションなど、とりうる施策は様々あります。自社にあった方法を探してみましょう。
予約受付システムとは、納品先における荷下ろしまでの待機時間を削減するために開発されているシステムです。
システムを介して納品先の荷下ろし予約を事前に済ませておくことで、出発時間の調整や配送ルートの組み換えが可能となり、効率的な輸配送を実現できることがメリットです。
拘束時間の削減が求められている現在の課題にフィットします。
長距離輸送が難しくなる未来に先駆けて、中継地点での輸送業者の変更やドライバーの変更を検討してみてはいかがでしょうか。
長距離輸送する際には休息時間を十分にとる必要があるため、輸送全体を通した拘束時間が長くなります。そのような状況を打破するために取引のある輸送業者と連携し、輸送距離を分割させて課題解決につなげられることがメリットです。
モーダルシフトとは、既存の輸送方法とは別の輸送方法に変えることです。例えば、従来はトラック輸送していた区間を鉄道輸送に変更することが挙げられます。
この方法のメリットは、トラックでの長距離輸送による間延びした輸送リードタイムを鉄道輸送に切り替えることで短縮できる可能性があることです。また、輸送にかかるコストやCO2の削減にも寄与できるようです。
とはいえ、限られた区間しか輸送できなかったり、納品先が駅より遠い場合は効果が出しづらかったりするデメリットもある点は注意しましょう。
他荷主企業へ共同配送を提案することも良いでしょう。この方法のメリットは、トラック1台あたりの積載効率を上げられる点です。
中小企業の課題の一つに、出荷数量は多くても1台のトラックを高積載にできない点があります。物量に限らず1台単位で契約している場合に避けられない課題でしょう。
そこで、他の企業と共同配送し、積載効率を高められれば、物流費の折半などを通して効率的な輸配送を実現できます。
一貫パレチゼーションとは、積み込みから荷下ろしまで商品をパレットに積んだ状態(一貫した荷姿)で輸送することです。
バラ積みバラ下ろしと違い、付帯作業にかかる時間を削減できるため荷役時間を削減できます。
とはいえ、積み替え作業が発生すると効果はなくなります。レンタルパレットの活用などプラスアルファの工夫も必要です。
中間拠点数の増加など輸送網の最適化も重要な解決策です。非常にハードルの高い方法ではあるものの、BCP対策や運行距離の削減につながる点がメリットといえます。
ハードルが高い理由としては、拠点の増加に伴う管理コストが増加したり、在庫配置状況の変更など運用コストとの匙加減を判断したりしなければならないためです。
とはいえ、不採算拠点の閉鎖にもつながるため、一定の企業で検討が進められています。
管理拠点への納品リードタイムの延長や発注リードタイムの交渉など、輸送スケジュールを改善することも重要です。
チルド食品では賞味期限の問題もあり、拠点への納品リードタイムが難しい側面もありますが、一度に輸送する物量を増やし積載効率を上げることで効率的な輸配送が実現するでしょう。
また、発注リードタイムを伸ばしてもらうことで、拠点から各納品先への配送スケジュールが改善され、ドライバーの拘束時間を削減できることが期待されます。
拠点においてパレットを活用することでドライバーの付帯作業を軽減できます。前述の一貫パレチゼーションにもつながる内容ではありますが、拠点でのパレット利用は荷下ろしや荷積みの時間を削減できるメリットがあります。
入出庫処理にかかる時間も減るため、検品待ちのような空白の時間も減らせるでしょう。
2024年問題を解決に導く物流DXの概要
諸問題を解決するためには自社の企業努力だけでは十分とはいえず、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用は避けられないでしょう。
DXで改善される内容として、配送車両の管理や業務管理の効率化が挙げられます。システムを導入することで配送ルートの最適化や配送車両の動態管理が可能です。その結果、無駄なコストの削減やドライバーの負担軽減を達成できるかもしれません。
また、勤怠管理や請求・精算、日報・月報作成など、こまごまとした付帯作業をシステム化することでドライバーの作業時間を削減できるでしょう。
これらのシステムを介した効率化を荷主企業は今後検討していかなければなりません。
運送業者との連携における荷主の注意点
2024年問題における法令順守は物流企業だけが責務を負うわけではありません。運送業者と連携し荷主企業としての責務を果たさなければならない時代に突入しました。
荷主企業として注意しておくべき法律は、貨物自動車運送事業法で定められた荷主勧告制度です。2019年に改正された当該法律によって、荷主側の原因による物流・運送業者の法令違反があった場合、改善要請や勧告の他に荷主名が公表されるようになりました。
具体的な違反事例は、恒常的な荷待ち時間の発生や無理な到着時間の設定、不可抗力の遅延による罰則、違反につながるような依頼などが挙げられます。
従来の荷主企業を取り巻く環境は刻々と変化しています。時代の流れに取り残されないよう、注意していかなければなりません。
2024年問題への適応で荷主企業が受けられる支援
2024年問題によって様々な規制やペナルティが荷主企業にも課されることが分かりましたが、荷主企業に対する支援はないのでしょうか。
ここからは、荷主向けの支援内容について紹介します。
税制特例として、輸送連携型倉庫に対して支援を受けられます。輸送連携型倉庫とは、従来型の保管倉庫や流通加工場、荷捌き用上屋など散在していた輸送網を集約した物流拠点が対象とされています。
そのような物流拠点を建築、購入する際に税制優遇を受けられます。減免は固定資産税や都市計画税などです。
2024年問題の解決に向けた取り組みをしていくにあたって、各種補助金や助成金も用意されています。
例えば、計画の策定や運行にかかる経費の補助や必要な施設や設備などへの支援が該当します。DXをはじめ投資費用が高額になりがちなため、受けられる補助金や助成金を活用して諸問題の解決に取り組みましょう。
前述のような支援を受ける場合、物流総合効率化法に則って総合効率化計画を策定し、計画を遂行します。必要な設備投資等に必要となる資金を調達しなければなりません。
そこで、長期低利子や無利子貸付制度、信用保険制度の限度額拡充などを利用しましょう。荷主企業としても資金調達が容易になれば課題解決に向けた行動をとりやすくなります。
まとめ
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